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2016-11

広島にて

小学校二年生の夏に広島へ旅行に行ったことがある。
その旅は自分の人生の中で一番強烈な印象を残した旅であった。
あんな旅は後にも先にも無いだろう。

兄と母と三人で原爆の傷跡を見て回ったのだ。

慣れない本州特有の蒸し暑さと、リアルな戦争の傷跡が持つインパクトは
7歳の小さな身体には到底受け止めきれるものではなく、
それは旅行中ずっと食べ物を口にすることが出来なくなってしまう程だった。

そしてその旅行で戦争の傷跡以外にも、もうひとつ忘れられない出来事があった。

その時僕は原爆記念館で本を選んでいた。原爆に関する児童書だ。
ワゴンセールに使われるようなラックに本が並べられており、僕は本をじっと見ていた。
するとその視界に手がすっと入ってきたのだ。

真っ黒な手。

甲の側は焦げたように黒い。掌の方はそれと比べると断然白く
その境目は線で引いたように黒と白で分けられていた。

僕はそれを見て“ギョッ”としたのだ。
そのまま視線を上げると、黒人の男性が立っていた。
僕はまたそれを見て“ギョッ”としたのだ。
人生で初めて黒人を見た瞬間だった。

旅での出来事に対して気持ちの整理がつかないまま、北海道に帰り
その旅はしばらくトラウマみたいな思い出になってしまった
(買った本を読むことが出来たのも、何年も後のことになる。それまで触ることも出来なかった)
その中でも黒人に対して“ギョッ”としてしまったことが本当にショックだった。
同じ人間に対してなんでそんな風に思ってしまったんだろうと。
僕は人として最低な人間なんじゃないかとか。すごく自分を責めていたのだった。



そして時は流れ。

僕は大学生になっていた。
FTMとして生きていこうと決意を固め、親しい仲間を中心にカムアウトをしていった時期だ。
周りの反応は総じて「驚いたけど、あんどうはあんどうだから」というものが多かった気がする。
そんな時、僕はふとあの広島旅行を思い出した。

あの“ギョッ”はそんなに自分を責めるほどのものじゃなかったんじゃないかと、ふと思ったのだ。

それは僕が「身体の性別と心の性別が食い違っている人間です」と告白することで
一度はギョッとされてるはずだと沢山カムアウトしていく中で思ったからだ。
そしてそれは、差別とか、見下してるとかそういうことではなく
ただ単純に初めて対峙するものに対する驚きなんだと。

現にあの時、あの真っ黒な手をした黒人を見つめて僕は逃げ出しただろうか。
嫌な気持になっただろうか、僕はただポーっと彼を眺めていた。
「黒人って本当に黒い肌をしているんだ」って思ったことをはっきり覚えている。

そこで点が線になったのだった。

セクシャルマイノリティだと告白することは一度相手をギョッと驚かせているかもしない。
でもその驚きは差別とか軽蔑とはまた違うものなんだろう。
そうした驚きを“引かれた”と感じ、差別されたなどと自意識過剰になるのはもったいない。
新しい出会いや、未来の理解の芽を摘むことにもなる気がするのだ。

誰でも初めてのことは驚くものである。

そして僕は卑屈にならず、被害者面などつまらないことはせず
沢山の人と出会って生きたいなぁと改めて思うのであった…。

あんどう
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プロフィール

あんどう

Author:あんどう
未治療FTM・FTXと、そのパートナー、ご家族、友人などのコミュニティ【紡ぐ】のスタッフとして活動しています。
主に『紡ぐラヂオ』の制作を担当しています。

北海道出身、未治療FTMの32歳。音楽と写真を撮ることが好きです。
みなさまどうぞよろしくお願いいたします。

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