新橋にて
8月末日。僕は職場の送別会に参加していた。
新橋の居酒屋にはざっと20名を越すスタッフが集まっていた。
以前ツイッターやラジオでは言っていたのだが、僕はこの4月に環境を変えて仕事をしている。
そして新たな部署で僕はセクマイとして自己紹介し、公式に(?)カムアウトして働いているのだ。
もちろん色んな思いがあってのカムアウトだが、今回はその想いについての話は割愛する。
働き始めてから、軽くその話題に触れる人は何人かいたものの
がっつりと突っ込んでくる人はおらず、正直少し拍子抜けしていた。
社内では中々プライベートな話は出来ないかもしれないが、
お酒の席などでは多少突っ込まれるかなぁなどど思っていた。
しかしこの5ヶ月間で一度もそういった質問は無かったのだ。
まぁ、相当個人的な話なので話題に上らないのは当たり前といえば当たり前だ。
少し「自意識が過剰だったかなぁ」などと思っていた。
新橋の夜は更けていき、お開きの時間が迫る頃僕は席を移動することにした。
なるべくたくさんのスタッフと会話した方が良いだろう。
移動した席には静かにタバコの煙をくぐらすS君がいた。
S君は、僕が新たに加入した部署で先に働いていた非常に優秀な24歳の先輩だ。
責任感があって、面倒見が良く、とにかく良く働く働き者。
僕は彼に一目置いていたし、彼の仕事ぶりをよく盗んでもいた。
そして何より誠実な良いヤツなのだ。
S君はかなり飲んでいたにもかかわらず少しも酔えない様子で
「あんどうさんじゃないですか!」と人懐っこい笑顔で話しかけてくれた。
いつも彼は社内で僕を見つけてはそう声を掛けるのだ。
そしてS君はそのテンションそのままで
「あんどうさんって元女性だったんですね!」と言った。
「いや、元っつーか手術とかはして無いんだけどね、でもそうだよ。間違ってない」
「まじかぁ~僕そういう方とはじめて会いましたよ~」
「あっそうなんだ」
「僕、テレビとかでしか見たことなくって…本当にそういう人いるんだって…」
「うんうん、そーなんだよ。生きてんだぜこういう人もさ」
「なんか初めの頃僕知らなくて身体とかさわってすみませんでした」
「いや別に全然いいんだよ。そういう絡みとか逆にうれしいもんなんだよ」
「そうなんすか?へ~」
「やっぱり珍しいもんなんだね。でも結構いるんだよ、実際は」
「そうなんすか?!」
どうやら彼は僕の自己紹介をあまりよく聞いていなかったようで
長らく僕を男性と認識していたらしいのだが、最近周りのスタッフから聞いて知ったという。
彼は僕が男性にしか見えなかったらしく、俄かには信じられなかったとしきりに言っていた。
いつも仕事の話をしてる時と変わらないトーンで
セクマイの人と出逢ったことと、それが僕であったことの驚きを率直に語るS君。
素直で、まっすぐな彼らしい語り口で僕はなんだか嬉しくなった。
彼の語り口はまるでそう
「あんどうさんって北海道出身だったんですね!僕行ったこと無いんですよ」
って話すのとまるで変わらない語り口だったのだ。
僕は、改めて自己紹介するように自分がFTMであると話し、彼は真剣に耳を傾けてくれた。
その会話は全員での記念写真撮影の号令と共に打ち切られ、長い宴はお開きとなったのだった。
S君は最後、思い出したように
「あ、知ったからっていって別に何にも変わんないっすよ、俺」と言った。
僕は「んなもんわかってるよ」と答えて
こんな風に世間話をするみたいに
自分のセクシャリティについて話せるような世の中になったらいいなと思った。
そして僕らは二件目を探しに店を出た。
都会のざわついた雑踏音すら耳に心地よく感じるほど、非常に気分の良い夜だった。
あんどう
新橋の居酒屋にはざっと20名を越すスタッフが集まっていた。
以前ツイッターやラジオでは言っていたのだが、僕はこの4月に環境を変えて仕事をしている。
そして新たな部署で僕はセクマイとして自己紹介し、公式に(?)カムアウトして働いているのだ。
もちろん色んな思いがあってのカムアウトだが、今回はその想いについての話は割愛する。
働き始めてから、軽くその話題に触れる人は何人かいたものの
がっつりと突っ込んでくる人はおらず、正直少し拍子抜けしていた。
社内では中々プライベートな話は出来ないかもしれないが、
お酒の席などでは多少突っ込まれるかなぁなどど思っていた。
しかしこの5ヶ月間で一度もそういった質問は無かったのだ。
まぁ、相当個人的な話なので話題に上らないのは当たり前といえば当たり前だ。
少し「自意識が過剰だったかなぁ」などと思っていた。
新橋の夜は更けていき、お開きの時間が迫る頃僕は席を移動することにした。
なるべくたくさんのスタッフと会話した方が良いだろう。
移動した席には静かにタバコの煙をくぐらすS君がいた。
S君は、僕が新たに加入した部署で先に働いていた非常に優秀な24歳の先輩だ。
責任感があって、面倒見が良く、とにかく良く働く働き者。
僕は彼に一目置いていたし、彼の仕事ぶりをよく盗んでもいた。
そして何より誠実な良いヤツなのだ。
S君はかなり飲んでいたにもかかわらず少しも酔えない様子で
「あんどうさんじゃないですか!」と人懐っこい笑顔で話しかけてくれた。
いつも彼は社内で僕を見つけてはそう声を掛けるのだ。
そしてS君はそのテンションそのままで
「あんどうさんって元女性だったんですね!」と言った。
「いや、元っつーか手術とかはして無いんだけどね、でもそうだよ。間違ってない」
「まじかぁ~僕そういう方とはじめて会いましたよ~」
「あっそうなんだ」
「僕、テレビとかでしか見たことなくって…本当にそういう人いるんだって…」
「うんうん、そーなんだよ。生きてんだぜこういう人もさ」
「なんか初めの頃僕知らなくて身体とかさわってすみませんでした」
「いや別に全然いいんだよ。そういう絡みとか逆にうれしいもんなんだよ」
「そうなんすか?へ~」
「やっぱり珍しいもんなんだね。でも結構いるんだよ、実際は」
「そうなんすか?!」
どうやら彼は僕の自己紹介をあまりよく聞いていなかったようで
長らく僕を男性と認識していたらしいのだが、最近周りのスタッフから聞いて知ったという。
彼は僕が男性にしか見えなかったらしく、俄かには信じられなかったとしきりに言っていた。
いつも仕事の話をしてる時と変わらないトーンで
セクマイの人と出逢ったことと、それが僕であったことの驚きを率直に語るS君。
素直で、まっすぐな彼らしい語り口で僕はなんだか嬉しくなった。
彼の語り口はまるでそう
「あんどうさんって北海道出身だったんですね!僕行ったこと無いんですよ」
って話すのとまるで変わらない語り口だったのだ。
僕は、改めて自己紹介するように自分がFTMであると話し、彼は真剣に耳を傾けてくれた。
その会話は全員での記念写真撮影の号令と共に打ち切られ、長い宴はお開きとなったのだった。
S君は最後、思い出したように
「あ、知ったからっていって別に何にも変わんないっすよ、俺」と言った。
僕は「んなもんわかってるよ」と答えて
こんな風に世間話をするみたいに
自分のセクシャリティについて話せるような世の中になったらいいなと思った。
そして僕らは二件目を探しに店を出た。
都会のざわついた雑踏音すら耳に心地よく感じるほど、非常に気分の良い夜だった。
あんどう
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